在職中は「保険証は持っていてあたりまえ」で、全く考えることもありませんでしたが、退職することになり急に考え始めたのが、というより考えなければならなくなったのが健康保険でした。
選択肢はいくつかあるようでしたが、私の場合は「健康保険任意継続」と「国民健康保険」のどちらかになるようでしたので、どちらがよりお得か二つの制度を比較してみることにしました。
退職後の健康保険(国民皆保険)
国民皆保険 こくみんかいほけん
すべての国民をなんらかの医療保険に加入させる制度。医療保険の加入者が保険料を出し合い,病気やけがの場合に安心して医療が受けられるようにする相互扶助の精神に基づく。日本では 1961年に国民健康保険法(昭和33年法律192号)が改正され,国民皆保険体制が確立された。
出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典(抜粋)
つまり、日本国民である以上なんらかの健康保険制度に加入しなければなりません。退職後の健康保険は次のいずれかから選ぶようになります。
- それまでの健康保険に引き続き加入する。(任意継続)
- 住所地の国民健康保険に加入する。
- 家族が加入する健康保険の被扶養者になる。
- 再就職先が決まっている場合、新しい会社の健康保険に加入する。
今回は、表題のとおり⒈の健康保険任意継続と⒉の国民健康保険に絞って考えてみます。
健康保険任意継続
健康保険任意継続は、退職後もそれまでと同じ健康保険の被保険者資格を継続できる制度です。
条件は退職前の被保険者期間が2カ月以上、期間は最長2年間までとなっています。
任意継続の手続き
この制度を利用するためには、退職日翌日から20日以内に、加入していた健康保険によって、健康保険組合事務所、あるいは協会けんぽの支部で本人が手続きを行わなければなりません。必要書類は、「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」ですが、場合によって被扶養者の収入を証明する書類が必要になることがあります。健康保険の所管については、お手元の健康保険証の保険者の名称を確認してください。
任意継続の保険料
保険料についてですが、在籍時は会社が半額を負担してくれていました。
それが退職することにより全額自己負担となりますので、一般的に保険料はそれまでに比べ高くなります。単純に計算すると2倍になりますが、必ずそうなるかというと、そういうわけでもありません。任意継続の場合、保険料算出基準額に上限がありますので、それ以上の給与を受け取っていた方の保険料増加率は2倍にはならなくなります。
詳しくは、退職が決まった早い段階で一度試算してもらうことをお勧めします。
任意継続の主な注意点
- 手続き期間(退職日翌日から20日以内)を過ぎると、基本的に手続きできない。
- 保険料の滞納があると即資格喪失になる。
- 一度手続きすると2年間変更できない。
国民健康保険
「国民健康保険」は、市区町村が保険者となる健康保険です。
保険料(国保税)の算出方法は自治体によって異なります。会社都合で退職する場合には軽減措置が受けられる場合があります。
(国民健康保険の軽減措置制度については、以下のページをご覧ください。)
国民健康保険の加入手続き
国民健康保険に加入するためには、原則として退職日翌日から14日以内に、お住まいの市区町村役場の担当窓口にて手続きを行います。必要になる書類は、離職票や健康保険の資格喪失証明書等の退職日の確認できるものと、マイナンバーカード、運転免許証など本人を証明する書類になります。申請書は窓口に用意されていますし、自治体によってはマイナンバーカードを省略できるケースもあるようです。
なお、退職日翌日から14日を過ぎての手続きも可能ですが、退職日の翌日までさかのぼって保険料を納付する必要があります。
(国民健康保険の加入手続きについては、以下のページもあわせてご覧ください。)
国民健康保険の保険料
保険料は、前年の収入等を根拠にお住まいの各市区町村ごとの基準で計算されます。
また、扶養者の概念がありませんので、世帯全員の保険料を納付する必要があります。上記のとおり、保険料算出基準が市区町村により異なりますので、担当窓口で試算してもらうことをお勧めします。
国民健康保険の主な注意点
- 手続きは退職日翌日から14日
- 家族全員分の保険料納付が必要
健康保険任意継続と国民健康保険
ここまで、健康保険任意継続と国民健康保険について簡単にみてきました。双方の主なポイントを簡単に比較すると下記の表になります。
任意継続 | 国民健康保険 | |
手続き期日 | 退職後20日以内(厳守) | 退職後14日以内 |
手続き場所 | 健康保険組合健康保険協会 (加入保険による) | 市区町村役場の国保担当窓口 |
加入の条件 | 退職日以前に社会保険に継続して2ヶ月以上加入していた人 | 他の健康保険に属していない人 |
加入期間 | 最大2年間 | 条件を満たしている期間 |
必要書類 | 資格取得申出書 | 健康保険の資格喪失証明書 |
脱退の条件 | 加入してから2年が経過したとき 就職などで、新たに社会保険に加入することになったとき 後期高齢医療の資格を取得したとき 保険料を期日までに納付しなかったとき | 他の健康保険に加入したとき |
手続き方法や加入期間等すこしづつ違いがあることが分かりますが、検討の際さらに重要になるのが保険料ではないでしょうか。この後は、いくつかのタイプごとに、どちらの健康保険がお得になる可能性が高いかを考えてみたいと思います。
ただし、保険料の算出基準には、退職時の給与額・扶養する家族の数・お住まいの地域・国民健康保険の軽減制度が適応になるかなど、いくつもの要素があるため一般論として出しにくいのも事実です。ここでは、あくまでも可能性の話と理解いただき、正確な金額などはそれぞれの健康保険を所管している窓口でご確認ください。
はたしてどちらがお得なのか
退職理由によって保険料支払いの優遇制度が使える可能性があります。その制度を使えるか否かによって選択すべき保険は変わってくるようです。
自己都合退職の場合
この場合は国民健康保険の軽減制度がありません。
国民健康保険は、基本的に前年の収入で保険料が算出され、また扶養の概念がないため扶養者全員の保険料を支払わなければなりません。それに対し、任意継続では算出基準となる退職時給与の上限が設定されていると同時に、特定の要件を満たせば扶養家族となるため、保険料に影響しません。
つまり、退職時に高い給与を受け取っていた場合や、扶養家族が多い場合は任意継続のほうが保険料負担を低く抑えることができるかもしれません。
会社都合退職の場合
国民健康保険の軽減制度が適応になる可能性があります。
(軽減制度につきましては以下の記事もあわせてごらんください)
その場合、前年の給与所得を100分の30として計算されることになりますので、国民健康保険のほうが割安になる確率が高くなります。退職時の給与所得が多かった方や扶養家族が多い方も、自己判断せずに一度窓口で確認されることをお勧めします。
注意が必要な場合
窓口で試算をしてもらうと、二つの保険料にあまり差が出ない場合があります。
その場合注意したいのが翌年の保険料です。「国民健康保険」は前年度の所得を基準に保険料を算出するので、退職年度の収入が低い場合、翌年の保険料は、その低い収入が反映されさらに低くなる可能性があります。それに対して「健康保険任意継続」の保険料は2年間変わりませんので、場合によって2年目で差が出る可能性があります。
さいごに
「退職後の健康保険は健康保険任意継続と国民健康保険加入のどちらが得なのか」ということで調べてみましたが、全ての人に当てはまる答えはなく、その人の退職時の収入や退職理由によって変わるということが分かりました。「健康保険任意継続」と「国民健康保険加入」の二択で迷っている方は、退職が決まったら早い時期にそれぞれの保険料を試算してもらうことをお勧めします。どちらも保障に変わりはありませんので、少しでも有利な制度を選んで手続きをしてください。