「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」それぞれの特徴や書き方をくらべてみた

「遺言という言葉は多くの人が知っていると思いますが、「遺言には3つの種類があることを知っている人は少ないかもしれません。
今回は、自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言の3つの遺言をくらべてみました。

遺言とは

遺言』とは遺された人たちに故人の意思を伝えるために作成する書類です。

似た言葉である『遺書』とは異なり、定められた方式で作成することによって法的な効果を持たせることが出来るため、相続財産の分配などで故人の考えを反映させるために使用されます。

遺言
遺言(ゆいごん、いごん、いげん)とは、日常用語としては形式や内容にかかわらず広く故人が自らの死後のために遺した言葉や文章をいう。日常用語としてはゆいごんと読まれることが多い。このうち民法上の法制度における遺言は、死後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいい、法律上の効力を生じせしめるためには、民法に定める方式に従わなければならないとされている(民法960条)。法律用語としてはいごんと読まれることが多い。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

遺言の種類

遺言にはその作成や保管・手続きの方法などが違うものが3種類あります。
まずは簡単な表を使ってそれぞれの方式の特徴を比較し、そのあとで1つずつ確認してみたいと思います。

  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 本人が自署・押印し作成する 本人が遺言内容を口述
⇒ 公証人が記述する
本人が署名・押印し作成
⇒ 封筒に入れ封印
⇒ 公証役場の証明をうける
秘密性 秘密にできる 証人に知られてしまう 秘密にできる
証人 不 要 2人必要 2人必要
保管方法 本人あるいは被相続人が保管 原本:公証人
正本:遺言執行者
謄本:遺言者
本人あるいは被相続人が保管
検認手続き 必 要 不 要 必 要
費用 不 要 必 要 必 要
メリット 費用がかからない
自分一人で作成できる
遺言内容を秘密にできる
法的に有効な遺言書が作成できる
偽造される恐れがない
紛失時再発行してもらえる
遺言書が本物であることを証明できる
遺言内容を秘密にできる
デメリット 無効になる可能性がある
本物かどうかの証明ができない
滅失・偽造・変造のリスクがある
費用がかかる
遺言内容を秘密にできない
費用がかかる
無効になる可能性がある
滅失のリスクがある
※自筆証書遺言のデメリットの一部は遺言書を法務局に保管できるようになることで解消されます。

自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)

『自筆証書遺言』は、遺言者がその全文に加えて日付や氏名を自書し押印して遺言書を作成する遺言方法です。
いくつかのポイントを押さえればいつでも簡単に作成することが出来ますが、相続開始時に家庭裁判所の検認が必要になります。

検認とは家庭裁判所が公正証書によらない遺言書について、偽造・変造・隠匿を防ぐためにその存在や形式について調査・確認する手続きです。
民法1004条には「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない」と規定されていますが、2020年7月からはじまる遺言書を法務局において保管する制度を利用すると検認の規定は適用されないようです。

自筆証書遺言のメリット

  • 自筆することができれば費用をかけずいつでも作成することができる。
  • 特定の書式がないのでポイントを押さえれば自由に書くことができ、書き直しや修正も自由にすることができる。

自筆証書遺言のデメリット

  • 自筆でなく代筆やパソコンでの作成だったり作成日の記入や押印を忘れたりなど書き方を間違えると無効になる場合がある。
  • 家庭裁判所での検認手続が必要であり、それをせずに開封すると罰則がある。
  • 滅失・偽造・変造のおそれがある。

公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)

『公正証書遺言』は、遺言者が公証役場の公証人に遺言内容を伝えて専門家である公証人が証書を作成する遺言方法です。
作成された証書の原本は公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。自筆証書遺言と異なり検認は不要ですが2名の証人が必要です。

2名必要になる証人ですが、民法974条では「次に掲げる者は遺言の証人又は立会人となることができない」とされています。
一  未成年者
二  推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三  公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

公正証書遺言のメリット

  • 公証人と一緒に作成するため書き方の不備がなく内容が正確な遺言書を作成できる。
  • 家庭裁判所での検認手続が必要ない。
  • 滅失・偽造・変造の心配がない。

公正証書遺言のデメリット

  • 公証人に依頼するため作成に時間がかかる。
  • 相続財産の価額に応じて費用が発生する。
  • 証人2名の立会いが必要になり、そのためその存在や内容を秘密にできない。

公正証書遺言作成に必要な書類

  • 遺言者本人が確認できる資料(印鑑登録証明書又は運転免許証などから1点)
  • 遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
上記以外にも遺産に不動産が含まれる場合や財産を相続人以外の人に遺贈する場合など、状況によってその他の書類が必要になります。

公正証書遺言作成にかかる費用

公正証書の作成にかかる手数料は一律ではなく相続財産の価額に応じて算出されます。目的の価格毎の手数料は以下の表のようになります。

目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円~
目的の価格が5,000万円増える毎に13,000円プラス
3億円を超え10億円以下 95,000円~
目的の価格が5,000万円増える毎に11,000円プラス
10億円を超える場合 249,000円~
目的の価格が5,000万円増える毎に8,000円プラス
参照:公証人手数料令第9条別表

秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)

『秘密証書遺言』とは遺言書を遺言者自身で作成し公正役場において本物であることを証明してもらう形の遺言方法です。
一連の手続きを終えると遺言書の入った封筒は遺言者に返却されます。遺言者の署名と押印があればパソコンでの作成なども可能ですが、検認2名の証人が必要です。

秘密証書遺言のメリット

  • 遺言の内容を秘密にしたまま遺言書が本人のものである事を明確にできる

秘密証書遺言のデメリット

  • 手数料がかかる。
  • 公証人は遺言書内容の不備までは確認しない。
  • 家庭裁判所で検認手続が必要である。

その他の遺言

『自筆証書遺言』『公正証書遺言』『秘密証書遺言』は普通方式遺言といわれますが、それとは別に特別方式遺言というものがあります。
疾病や負傷などで生命の危機が迫った人の遺言形式である『一般危急時遺言』、船舶や航空機などを利用していて生命の危機が迫った人の遺言方式である『難船危急時遺言』、伝染病による行政処分によって隔離を余儀なくされている人や刑務所の服役囚・災害等の被災者などが作成する遺言方式である『一般隔絶地遺言』、船舶に乗っていて陸地から離れた状態の人が作成する遺言方式である『船舶隔絶地遺言』の4つがありますが、緊急性を擁する特殊な状態で作成する特別な遺言方式ですのでここでは名前の確認にとどめたいと思います。

さいごに

今回、作成方法などの違いによって数種類の遺言があることを確認しました。
それぞれ作成にあたっての決まりがあり、それに沿って作成したものでないと故人の最後の意思(遺志)表示である遺言が無効になってしまう可能性もあります。
実際に遺言を残そうとなったらしっかり作成方法を確認し、大切な人たちにちゃんと想いを伝えたいものですね。

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